稲田コレクティブプラットフォーム 「福島発・地域と共に生きるデザイン」二等受賞
未来に生き延びるための地域デザイン
私たちは、このプロジェクトを「未来に生き延びるための地域デザイン」と呼ぶ。
四つのNPO活動とそれを支えるためのウッドデッキのプラットフォームでつながれた分棟形式の建築を提案した。
何世代にもわたって、あるいはこれから何十年もの間、人を育て、人を迎え、県内外や海外と稲田の風土や人々を結びつけ、皆が強く生き延びていくための拠り所となる場を、協力し合って作っていくこと。そして、変化していく社会環境と共に存続させていくこと。これが「稲田コレクティブプラットフォーム」の意義であり、私たちの提案である。
稲田 コレクティブ プラットフォーム
計画案 / 地域デザイン 複合施設
木造 / 平屋建て・二階建て / 福島県須賀川市 / 2012 / コンペティション応募案
設計:小形 徹 * 小形 祐美子 プラス プロスペクトコッテージ 一級建築士事務所
第二回郡山アーバンデザインセンターコンペティション「福島発・地域と共に生きるデザイン」
二等 として選出される
<敷地と要求>
敷地は、福島県須賀川市稲田地区にあるおとぎの宿米屋が所有する、里山に囲まれた土地である。敷地北側には、米屋と30年ほど前に開発された住宅団地が隣接する。稲田は農業生産を中心とし、人口は約4200人。今後のこの地域のあり方はどうあるべきか?それを「福島発・地域と共に生きるデザイン」としてこの場所に提案することが求められた。
<稲田コレクティブプラットフォーム>
私たちは、福島の難しい状況から日本の新しい時代が始まると考えている。原発事故以後の価値観の大きな変化、想像を超える人口減少時代を超えて、生き生きとした、農業生産を中心に据えた、他に負けない、強くて実り多い地域社会と風土を、福島稲田に作りたいと考えた。
これを実現し、継続して、維持・持続していくためには、これからの地域農業を支えていく、アクター達を育てていくことが必要である。また、地域外や海外からもアクター達を迎え、それと既存の地域社会とを繋げ、理解を深め合う活動と場が必要になるのだろう。
稲田の今を生きる人々を大切にし、明日を生きる人々を育て、協働してくれる人々を迎え、県内外や海外と稲田の風土や人々を結びつけ、そして外への接続点となる、複合的NPO「稲田コレクティブプラットフォーム」を提案する。
<四つのNPO活動>
1) 「食堂」
集まって食事を共にできる場所をつくること。食事を共にするということは、コミュニケーションの基本である。同時に、ここに滞在する人々や、訪問者、そしてケアやワークショップの活動に対しても、相互補完的な役割を持つ。地域の幾つもの農業生産法人が交わる場所にもなる。
2) 「滞在」の支援活動
地域内外、県内外、海外などから、短期・中期・そして長期の滞在のための場所を提供する。二地域居住や、移住などのきっかけになり、また、介護が必要な人のための家としても使用できる、多様な住まい方を支援するプログラム。
3) 「図書室とワークショップ」
地域外や海外へ、若い人たちを送りだし、また招待や交換留学を行なったりと、世界を広げ、そこから福島や稲田を見て学ぶ活動を展開する。外部と直接ネットワークをつくり、生き方や住まい方、働き方を考えていくための活動を行なう。図書室はその拠点となり、記録等を保管する。
4) 「ケア」
ケアが必要な老齢者や障がい者、あるいは子供などが、自由に自発的に快適に過ごす場所を提供する、小規模多機能型居宅介護施設。家族の中にケアが必要な人がいる場合には、安心して頼ることができる場所になり、そうあることで、ケアだけに縛られず、農業生産や地域の活動に積極的に参加していくことが可能になる。この複合的な活動にそれぞれの人が一人の人として参加することである。自分にできるサービスをワーカーとして提供し、またサービスを受ける。自分ひとりで、あるいは家族という単位で完結させるのではなく、自分でできることは自分で、手伝ってもらったほうが良いものは、手を借りながら、そして同時に自分自身も手を貸しながら、地域全体の未来に、関わることができることが大切である。
このような活動が、同じエリアにまとまってあることで、独立した活動を行いながら、同時にお互いの活動を補完しあうことが可能になる。あるいは、何気なく地域のことを理解したり、共有することができるだろう。一つのエリアを協同しながら、皆で稲田の未来へと向かう土台をつくる。それが「稲田コレクティブプラットフォーム」の活動である。
<配置計画>
私たちは敷地に隣接した笠木団地の延長に今回の計画があるように考えた。食堂と図書室の入口を笠木団地との間に設け、そこを起点としながら建物を配置した。このような配置計画によって「稲田コレクティブプラットフォーム」が、稲田の風土と、笠木団地やおとぎの宿米屋とをつなげていく。さらには笠木団地内の空地や空き家を借り受けて、滞在施設やケアハウス、ワークショップの機能増強を行なったり、米屋が持つ外部世界に対する広い窓口を活用することが可能になる。
段階的な建設や、その過程における活動や規模の調整、そしてメンテナンスが容易となるような分棟形式の建物群をウッドデッキのプラットフォームでつなぐ。
<建物について>
蓄電型の太陽光発電を積極的に採用しできるだけ自給型に近づけたい、と考えた。そのために建物の屋根は全て平らにし、その上に太陽光発電パネルを設置する計画とした。こうすることで、建物の向きに関係なく適切な方向と角度に太陽光発電パネルを設置することが可能になる。また、なるべく自然換気や通風を生かし庇等を活用して、断熱性が高く小さなエネルギーで維持できる建物にしたいと考えた。加えて温泉の排熱を利用した、ヒートポンプ式の冷暖房を取り入れた。
外部の仕上は、福島県産の厚い杉板。その内側に本来の外壁があり、それを厚い杉板が、熱や日射、あるいは風や冷気から保護する。経年変化によって風景に馴染み、雑木林や土地そのものと一体化してくるだろう。
それぞれの建物は、プラットフォームの上に深い庇を差し伸べ、あるいはその下でおしゃべりができるようなアルコーブを持つ。そこで出会いや気付きが生まれ、佇んだり休んだりできるような、多様で豊かなストーリーが生まれる場でありたいと考えた。
このページの最初に戻る
プロジェクトに戻る