横須賀の家 久里浜 静かな光が表情豊かに移り変わる住まい
光のシークエンス
建設当時三十歳手前だった夫婦が建てた家。
予算は少なく、そこで暮らすことができるなら倉庫のようなもので良い、そう二人は考えていた。大切にしたことは、その内部にどのような光を採り入れるかだけだった。
竣工からはや二十五年、今も変わらず、移り変わる静かな光をその内部に湛えている。
この計画の途中プロセスや図面などを以下のページに公開しています。
すまいの計画50選 No.01 立方体と光がつくるニュートラルな住まい
久里浜の家
木造 / 2階建て / 住宅 / 新築 / 神奈川県横須賀市 / 2002 / 1995
基本設計:小形 徹 * 小形 祐美子
外壁はガルバリウム鋼板小波素地。外構の土留めには枕木を重ね、その上に杉板塀。
吹き抜けの天井高さは4.5M。黄色の窓と呼んでいる板戸は竹の棒で開閉する。この東に向いた高窓から朝の光が入ってくる。もう一方の黒い窓も開閉する。その向こうは二階の書斎。
吹き抜け下の東南の角には地窓。ガラスははめ殺し。その手前に簾をかけて柔らかい光にしている。壁内に収納された板戸によって閉じることができる。南側には掃き出し窓。竣工後15年程してから、ベンチや棚そしてテーブルの天板をとどまつの三層パネルで製作した。
カーテンの向こうは玄関と階段。壁面の黒々とした孔はTV。
右手の白い家具は造作したもの。反対側にある台所から使う食器棚と表裏一体になった収納家具。設計時には他にも造作家具を計画したが、予算の関係で実現したのはこの家具と台所の吊戸棚だけだった。
台所。他の部分から独立しているが、天井までは届かない収納家具によって仕切っているため、声や雰囲気は途切れない。この収納家具を中心にぐるっと回れるプランになっている。正面は勝手口、その先の庭の一角に出る。
吊戸棚は造作家具として製作した。角に小さな採光・換気窓を設けた。天井までの引戸の向こうは洗面室・浴室・トイレ。
玄関。土間とホールをあわせて四帖。
階段。手前上部の張り出し部分は和室の押入。
二階の和室。この他二階には書斎と納戸を設けた。
書斎は幅1.8m×奥行き7.2mの細長い空間。
書斎の黒い窓から吹き抜けを見下ろす。
神奈川県横須賀市の古い分譲住宅地に建つ家。建設当時、建主は大きさについても、仕様や仕上についても、夫婦二人が住むのに不足がなければ、それで十分と考えていた。彼らはがらんとした倉庫のような空間をイメージしていたのだ。
プロジェクトを進行するにあたり、外形7.2m角のキューブを、この住宅のための基準となる大きさとして選択した。そしてそこからユーティリティースペースなどの必要な機能を確保し、その後に残ったヴォイドが、このプロジェクトのサイトになった。
五つの光の孔を、外部の世界とこのヴォイド/サイトを関係付けるものとして導入した。一日を通して、また季節の移ろいと共に、光が窓から様々な様相で入ってくる。ヴォイドは、刻々とその表情を変えてゆく。光とそのための開口部のデザインが丁寧に扱われ、ヴォイドに生命を吹き込んだ。ヴォイドは、光のシークエンスと共にある静かで穏やかな場所になった。
建物自体は1995年に竣工し、外構部分を2002年に追加し現在に至っている。内部はほぼ竣工当時のまま保たれている。シンプルでありながら、表情豊かな住まい。
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